BIZREN☆通信 27号 「中小企業とブランド戦略」

こんにちは。私は、長らく電機メーカーでブランド戦略の構築に携わってきたのですが、今回は、「ブランド」の考え方が中小企業でも有効か?ということで、「中小企業とブランド戦略」というテーマについて考えてみました。

ブランドとは?

皆さん、「ブランド」というと何を思い浮かべますか?

シャネルやルイヴィトンのようなハイブランド?それとも、アップルやコカ・コーラ、スターバックスなどが思い浮かぶでしょうか?

ブランドという言葉の語源は、中世ヨーロッパで所有する家畜が紛れてしまわないように、自らの所有物であることを示すために押していた「焼き印(brand)」だと言われており、物事を区別するための要素、という考え方から来ています。

しかし、現在では、ブランドは単純に区別をするだけのものではなく、物事やサービスによる評価や価値が蓄積されたものと考えられています。

ブランドの価値

ブランド論の第一人者であるディビッド・A・アーカー教授のブランドエクイティモデルでは、ブランド価値を、①ブランド認知(知っているかどうか)、②ブランドロイヤルティ(ブランドに対する好意や愛着)、③ブランド連想(ブランドの特徴や個性の認識)、④知覚品質(信頼度や品質イメージ)、⑤ブランド資産(知的財産権などの価値)に分類しており、多面的な価値を持つ、無形の資産と考えています。

ブランドコンサルティングのインターブランド社の調査 「Best Global Brands 2021」によると、世界で最も高いブランド価値を持つのはアップルで、そのブランド価値は 4,000億ドル以上と試算されています。ブランド価値には、選好性や価格プレミアムなど、製品やサービスの価値を高めることに直結する効果があり、企業活動に付加価値をつける機能があると考えられています。

ブランド戦略構築のプロセス

ブランド戦略構築にあたっては、まずそのブランドが何を目指し(ビジョン)、何を強みとし(コアコンピタンスやケイパビリティ)、何を実現していくのか(ミッション)という考え方を整理します。

その考え方を、企業活動により体現していくことで、社内外に対して一貫性を持ち、共通のイメージを持つブランドが構築され、ブランド価値が蓄積されていくことになります。

ブランド=知名度だという誤認をされている方がいらっしゃいますが、有名であるかどうかよりも、明確な特徴や一貫した活動と、そこに認められる価値が認識されているかが重要であると考えます。

中小企業は、認知獲得のためにTVCMなどへの大規模な投資は難しいと思いますが、経営の意思が企業活動に直結しやすいという点では大企業に比べて取り組みやく、自社の特徴や強みを明確にし、企業活動を通じて自分たちの価値を高めていくというブランド戦略は取り組みやすい施策なのではないかと思います。

中小企業のブランド戦略成功例

たとえば、山口県で日本酒製造業を営む旭酒造という企業があるのですが、こちらは、積極的な経営改革を、ブランドにつなげて大成功を収めた事例だと考えています。

日本酒市場は、この40年間で約1/3規模へと大幅に縮小しています。その厳しい環境下で旭酒造は、従来からの杜氏制度を廃止しデータによる醸造管理へ移行、生産品目を純米大吟醸酒へ絞り込む等大規模な経営改革に取り組み、地元山口から東京や海外へと展開していきました。

旭酒造は、この経営改革の旗印として銘柄を「獺祭」に絞り込みました。従来の日本酒とは異なるアプローチと共に、その品質や味の評価を、「獺祭」というブランドに蓄積するという考え方です。

「獺祭」は、当初は知る人ぞ知るという銘柄だったものが、現在では純米大吟醸酒の代表的な銘柄として認識されており、非常に高いブランド価値を蓄積しています。

>旭酒造 (https://www.asahishuzo.ne.jp/

ブランド戦略というと、宣伝やロゴなどの見せ方だけが論じられてしまうことが多いのですが、中小企業の強みや特徴を表現するためのツールとして活用し、付加価値を高めていくことができる考え方だと思います。一般消費者向けの商品だけでなく、企業間取引においても何が得意か、というのは発注先を検討する際の判断材料の一つになりますので、中小企業においても、自社がどのように見られたいかを考えてみてもらうと、これまでとは違う事業展開が見えてくるかもしれません。

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執筆者プロフィール:

城 秀利 (たち ひでとし):2013年9月診断士登録。

電機メーカー勤務。ブランド戦略、広告宣伝関連業務に従事。

趣味で、宣伝会議賞というコピーライティングの公募賞に応募していますが、受賞には至りません。