今回、BIZREN★通信を担当する吉田樹生(たつお)と申します。2021年5月に中小企業診断士登録し、昨年10月にBIZRENに入会しました。現在、外資系ITベンダーに勤務しつつ、副業で中小企業診断士としての活動を行っています。以後、どうぞよろしくお願いします。
昨年、縁あって「カイゼン(活動)」の普及に取り組まれている某公益財団法人のプロジェクトに参画し、アジア各国の中小企業(主に製造業)を対象としたIoT人材育成に係る教育教材の執筆を一部担当しました。今回は、その経験に基づき、中小企業の「カイゼン」にデジタル技術を取り入れることの有用性と、その場合に適したプロジェクトマネジメント手法として「スクラム」を紹介します。
「カイゼン」にデジタル技術を取り入れるメリット
「カイゼン」とは、日々の業務におけるムリ、ムダ、ムラを排除し、生産性を高めるための活動を指しますが、近年は、IoTセンサーや小型カメラなどのハードウェアの低価格化やクラウドサービスの充実などを背景に、中小企業においても、デジタル技術を活用した「カイゼン」に取り組みやすくなってきました。デジタル技術を取り入れた「カイゼン」を私は「デジタルカイゼン」と呼んでいますが、「デジタルカイゼン」には、以下のようなメリットがあります。
①分析の高度化:IoTセンサーや画像認識技術を活用することにより、精緻なデータを得ることができるため、これまでは把握することが難しかったような細かい単位のムリ、ムダ、ムラを発見することが可能となります。
②効率性の向上:リアルタイムデータの収集と分析により、生産プロセスのボトルネックを迅速に特定し、さらにAIによる自働化などにより、生産活動の効率性向上が可能となります。
③コスト削減:デジタルカイゼンによる分析の高度化や効率性の向上により、不良品の減少、手戻り工数の削減、人件費削減などを通じてコスト削減が可能となります。
「デジタルカイゼン」において有効なプロジェクトマネジメント手法とは
「デジタルカイゼン」を行う際には、アジャイル型のプロジェクトマネジメントが有効です。なぜならば、アジャイル型プロジェクトマネジメントは、「カイゼン」と親和性が高いためです。
「カイゼン」は、日常業務においてムリ、ムダ、ムラを発見して、これらを短いサイクルで、継続的に改善していくことにより生産性を高めていく活動ですが、アジャイル型プロジェクトマネジメントも、短い期間で要件定義、設計、構築、テスト、リリースを繰り返すことにより、プロジェクトを進めていく手法であり、「カイゼン」と共通した特徴があります。そして、そのアジャイル型プロジェクトマネジメント手法の中でも、最も広く利用されているのが「スクラム」です。
「スクラム」は、1990年代に米国人のJeff SutherlandとKen Schwaberがソフトウェア開発のフレームワークとして体系化したものですが、Jeff Sutherlandは「スクラム」のフレームワークを開発するにあたり、その基本概念の多くを大野耐一が確立した「トヨタ生産方式」を参考にした、と言っています。また、「スクラム」という名称も日本人に由来します。野中郁次郎と竹内弘高です。彼らは、1986年にハーバードビジネスレビューに発表した論文「The new new product development game」の中で、競争力の高い企業の新製品開発のプロセスを「ラグビーのようにチームが一丸となって進む」と表現し、この特徴を持つ手法を「スクラム」と名付けました。JeffとKenはこの論文とトヨタ生産方式を基にスクラムを開発したのです。
「スクラム」と「カイゼン」との親和性について
このような背景から、「スクラム」は、その根本的な思想に「カイゼン」と共通する特徴を持っています。
①小さな単位の機能開発と変化への適応:スクラムは、システム全体を小さな機能単位に分割し、1~4週間の短期間で機能ごとに積み上げていくプロセスを繰り返して開発します。これにより、開発要件の変更に柔軟に対応できます。この点は、漸進的な改善を目指す「カイゼン」と共通しています。
②チームの主体性を重視:スクラムは、チームメンバーの主体性を重視します。メンバー各自が自発的に活動し、作業方法を決定することで、生産性と適応力が向上します。カイゼンも同様に、現場の作業者が主体的に活動することを奨励しています。
③透明性とコラボレーションの促進:スクラムは透明性を重視し、プロジェクトの進捗状況や開発内容を関係者全員が確認できるようにします。カイゼンにおいても、透明性とメンバー間の情報共有が重視されています。どちらも、関係者間の活発なコミュニケーションが協力や工夫を促進するという信念に基づいているのです。
④定期的な振り返りによる継続的なカイゼンの促進:スクラムには、定期的な振り返りイベントがフレームワークに組み込まれており、経験から学び、カイゼン活動を進化させる仕組みが備わっています。
まとめ
今回は、従来のカイゼンをデジタル技術により高度化する「デジタルカイゼン」の有用性と、そのプロジェクトマネジメント手法としてスクラムが有効であることをご紹介しました。紙面の都合上、スクラムの詳細には触れていませんが、興味を持たれた方は、「スクラムガイド(2020年11月版)」が公開されている他、関連する書籍も多く出版されていますので、ご覧いただければ幸いです。経済産業省が策定した「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」においても、「労働人口の減少や市場縮小等の課題に直面する全ての中堅・中小企業等にとって、DXの取組は必要不可欠」と謳われています。本稿が、皆様の中小企業支援活動の一助となれば幸いです。
執筆者プロフィール
吉田 樹生 (よしだ たつお): 2021年5月中小企業診断士登録
愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部卒。
日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITストラテジスト。
ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。趣味は旅行、読書、カメラ、空手。