BIZREN☆通信 34号 「技術で勝って事業で負ける」って本当?

2024年からBIZRENに参加しております須田と申します。
私は現在、某公的研究機関とその関連会社において、シーズ・ニーズマッチングを生業とする傍ら、細々と診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。今回は、皆様もよくご存じのフレーズ「技術で勝って事業で負ける」に関して考えてみたいと思います。

  1. はじめに: 日本の技術力と「事業力」のギャップ「日本の技術はピカイチなのに、なぜビジネスで勝てないんだ?」。
    これは、技術者や経営者が日々頭を抱える問題です。私自身も、アカデミアでの研究開発に多くの時間を費やし、技術こそが成功の鍵だと信じていました。しかし、最近のシーズ・ニーズマッチングの仕事を通して、技術と事業成功の間には大きなギャップが存在することを痛感しています。技術力が高いほど、事業がうまくいかない―そんな逆説的な状況も現実にはあります。
  1. 技術が強すぎると事業で負ける?
    妹尾堅一郎著『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』では、技術の強みが必ずしも事業の成功を保証しないという皮肉が詳述されています。技術者が新しい技術を「見せびらかす」こと
    に喜びを感じる一方で、実際にその技術をどうやって市場に投入するかが二の次になることがよくあります。
    例えば、画期的な新素材を開発した企業が、「これは世界を変える!」と信じて市場に投入したのに、全く売れなかったという話を聞いたことはありませんか?技術に没頭しすぎて、「売ること」を忘れてしまうのです。技術は完璧なのに、市場とのギャップが原因で失敗する…これが「技術で勝って事業で負ける」の典型例です。
  1. 技術で勝っても事業で負ける例: 日本の事例
    日本には、技術が素晴らしいにも関わらず事業として失敗した事例が多くあります。たとえば、VHS対ベータマックス戦争はその一例でしょう。ベータマックスは技術的に優れていましたが、ビジネスとしてはVHSに敗れました。その理由は単純で、技術の優位性よりも、マーケティング戦略や消費者ニーズに合わせた柔軟性が鍵だったのです。このように、技術で勝っていても「売れる仕組み」がなければ、事業としては成功しないというのは、日本のビジネスにとっての教訓です。
  1. オープン&クローズ戦略: 技術をどう活かすか?
    小川紘一著『オープン&クローズ戦略』は、技術の活用におけるもう一つの鍵を教えてくれます。彼の主張は、技術をオープンに提供する部分と、クローズにする部分を巧みに使い分けることで、事業を成功に導くというものです。
    例えば、ある企業が自社の基幹技術をオープンにすることで、他社との連携を強化しつつ、最も重要な技術部分はクローズにして他社の追随を許さないという戦略です。これにより、技術そのものを売るだけでなく、その技術が使われるエコシステム全体を取り込むことで事業を拡大することが可能になります。
    技術が優れていても、それをどうやって市場に適応させ、収益化するかが勝敗を分けるのです。
  1. 技術より大事な「売れる仕組み」
    技術がどれほど素晴らしくても、それだけでは成功しません。シーズ・ニーズマッチングの仕事を通じて痛感しているのは、どれほど斬新な技術でも、顧客のニーズに合わなければ売れないという現実です。
    「技術者は技術に溺れやすい」。これは私自身、アカデミアでの経験からも感じていることですが、研究成果を創出し、技術を向上することにばかり力を注ぎ、市場の声を聞くことを忘れがちです。研究や技術が主役ではなく、それを活用してどのようにビジネスモデルを構築するかが、事業成功のカギなのです。
  1. まとめ: 技術で負けても、事業で勝つ方法はある
    技術がすべてだと考えると、事業での失敗が増えます。しかし、逆に技術で多少劣っていても、適切なビジネス戦略を持てば事業で成功することは十分に可能です。
    技術で勝っても事業で負ける、逆に技術で負けても事業で勝てる。この逆説的な状況こそが、現代ビジネスの面白さです。技術と事業戦略がうまく調和することで、本当の勝者になれるのです。
    そしてそのためには、シーズとニーズのマッチングをいかに戦略的に行うかが、これからの事業成功のカギとなるのでしょう。

参考図書
『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎著
『オープン&クローズ戦略』小川紘一著

執筆者プロフィール

須田洋幸(すだひろゆき): 2021年・中小企業診断士登録。
某公的研究機関に四半世紀以上勤務し、その間、独国在外研究や研究所の経営企画、研究ユニット管理などを経験。
現在は関連会社にて、研究シーズと企業ニーズをベースに研究連携を組成するコーディネート業務に従事。
趣味は、球技崩れの陸上競技部リーダーを発端に、ウォーキングやトレランなど体を動かすこと。その他、昔夢見たフォークシンガーにいつかは・・・。

BIZREN☆通信 33号 「環境社会配慮確認とインパクトファイナンス」

2024年5月からBIZRENに参加しております吉江と申します。私は現在、某政策金融機関(以下「当行」)において、出融資保証(以下「ファイナンス」)の供与先であるお客様の環境社会配慮の適切性を確認するという仕事をする傍ら、副業で診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は、この「環境社会配慮確認」と、関連して最近メディアでも取り上げられつつあるインパクトファイナンスをご紹介します。

◆ 環境社会配慮確認

当行は、ファイナンスを供与する前に、信用力審査や事業評価を行いますが、同時に、ファイナンス対象プロジェクト全てにおいて、環境社会配慮も確認します。具体的には、お客様からファイナンスの要請があると、まず、環境社会へのリスクの度合いをスクリーニングするための所定のアンケートにお答えいただき、カテゴリ分類(主にA、B及びC)を行います。AやBに分類されると、さらに「レビュー」が行われます。大気質、水質、生態系、といったプロジェクト周辺の「環境」や、地域住民・先住民・労働者の人権、文化財、景観といった「社会」に対して適切な配慮がなされているか確認します。不適切な場合は、適切になるよう働きかけ、それでも改善されない場合は、ファイナンスを実施しないこともあります。そして当行のファイナンスは期間が10~20年と長期にわたりますが、その間、環境社会配慮の状況をモニタリングします。

当行は「環境社会配慮確認」のための独自ガイドラインに基づき業務を実施しています。同ガイドラインは、各国の政策金融機関の環境社会配慮確認に関する取り決めである「OECD環境コモンアプローチ」(注1)や、世銀グループの国際金融公社(IFC)の環境社会配慮に関する「パフォーマンス・スタンダード」(注2)も踏まえた内容となっています。

(注1)https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2016)3/en/pdf

(注2)https://www.ifc.org/en/insights-reports/2012/ifc-performance-standards

◆ インパクトファイナンス

さて、「サステナビリティ経営」という視点で見ると、企業は外部環境にある財務資本、人的資本、社会関係資本、自然資本等を利用して事業活動を行い、その事業活動やアウトプットが外部環境に対する正負の影響をもたらします。正の影響を大きくし、負の影響を回避・緩和することが企業に求められますが、「環境社会配慮確認」は、この負の影響の回避・緩和に着目するものです。一方、昨今、正の影響の結果としての社会的な意義の達成や社会課題の解決、すなわちポジティブなインパクトに注目してファイナンスを行おうという動きがあります。それが「インパクトファイナンス(インパクト投資)」です。

The Global Impact Investing Network (GIIN)(注3)によれば、インパクト投資とは、「金銭的なリターンをもたらすとともに、社会的及び環境的なインパクトを生み出すもの」です。そして、インパクト投資には、投資を通じてインパクトを生み出すという投資家の意図が必要で、インパクトの達成や進捗を測定し報告するという「インパクト計測と管理(IMM)」が行われるのが特徴とされています。

1920年代からの欧米における「社会的責任投資」等の動き、2006年の国連「責任投資原則(PRI)」の発表を背景に、2007年に初めて「インパクト投資」という言葉を使ったロックフェラー財団が中心となり2009年にGIINを創設しました。日本を含む世界400以上のアセットマネージャー、アセットオーナー等がメンバーになっています。また、2013年に当時のG8議長のキャメロン英首相の提唱で創設された「G8インパクト投資タスクフォース」(2024年5月にGSG Impactに改称)(注4)は、日本を含む35か国の政府、その他国際機関等がパートナーとなり、調査研究や普及啓発を行っています。

日本でも2014年にGSG国内諮問委員会(注5)ができ、2021年に民間金融機関が「インパクト志向金融宣言」(注6)を発表。そして金融庁による2024年3月の「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」(注7)の公表と前後して、2023年11月に、投資家・金融機関、企業、自治体等の幅広い関係者が議論する場として、「インパクトコンソーシアム」(注8)が設立されています。

(注3)https://thegiin.org

(注4)https://www.gsgimpact.org/

(注5)https://impactinvestment.jp/index.html

(注6)https://www.impact-driven-finance-initiative.com/

(注7)https://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20240329.html

(注8)https://impact-consortium.fsa.go.jp/

社会的課題の解決と金銭的リターンを両立しようとするインパクトファイナンスは、日本でもスタートアップ含む中小企業の資金調達手段になりうるか、個人的に注目しているところです。

執筆者プロフィール

吉江 歩(よしえあゆむ)

2024年5月中小企業診断士登録。

某政策金融機関勤務。海外事業(天然ガス、再エネ、船舶・航空機等)向けファイナンスや業務企画、コンプライアンス、IT企画・統制、働き方改革企画等を経験。現在は、環境審査室に所属。

大学時代に母高女子バスケ部の監督をした経験からチームスポーツ全般を見ることと、カラオケ、シャーロック・ホームズが好きです。

BIZREN☆通信 32号 「デジタルカイゼン」とそのプロジェクトマネジメントについて

今回、BIZREN★通信を担当する吉田樹生(たつお)と申します。2021年5月に中小企業診断士登録し、昨年10月にBIZRENに入会しました。現在、外資系ITベンダーに勤務しつつ、副業で中小企業診断士としての活動を行っています。以後、どうぞよろしくお願いします。

昨年、縁あって「カイゼン(活動)」の普及に取り組まれている某公益財団法人のプロジェクトに参画し、アジア各国の中小企業(主に製造業)を対象としたIoT人材育成に係る教育教材の執筆を一部担当しました。今回は、その経験に基づき、中小企業の「カイゼン」にデジタル技術を取り入れることの有用性と、その場合に適したプロジェクトマネジメント手法として「スクラム」を紹介します。

「カイゼン」にデジタル技術を取り入れるメリット

「カイゼン」とは、日々の業務におけるムリ、ムダ、ムラを排除し、生産性を高めるための活動を指しますが、近年は、IoTセンサーや小型カメラなどのハードウェアの低価格化やクラウドサービスの充実などを背景に、中小企業においても、デジタル技術を活用した「カイゼン」に取り組みやすくなってきました。デジタル技術を取り入れた「カイゼン」を私は「デジタルカイゼン」と呼んでいますが、「デジタルカイゼン」には、以下のようなメリットがあります。

①分析の高度化:IoTセンサーや画像認識技術を活用することにより、精緻なデータを得ることができるため、これまでは把握することが難しかったような細かい単位のムリ、ムダ、ムラを発見することが可能となります。

②効率性の向上:リアルタイムデータの収集と分析により、生産プロセスのボトルネックを迅速に特定し、さらにAIによる自働化などにより、生産活動の効率性向上が可能となります。

③コスト削減:デジタルカイゼンによる分析の高度化や効率性の向上により、不良品の減少、手戻り工数の削減、人件費削減などを通じてコスト削減が可能となります。

「デジタルカイゼン」において有効なプロジェクトマネジメント手法とは

「デジタルカイゼン」を行う際には、アジャイル型のプロジェクトマネジメントが有効です。なぜならば、アジャイル型プロジェクトマネジメントは、「カイゼン」と親和性が高いためです。

「カイゼン」は、日常業務においてムリ、ムダ、ムラを発見して、これらを短いサイクルで、継続的に改善していくことにより生産性を高めていく活動ですが、アジャイル型プロジェクトマネジメントも、短い期間で要件定義、設計、構築、テスト、リリースを繰り返すことにより、プロジェクトを進めていく手法であり、「カイゼン」と共通した特徴があります。そして、そのアジャイル型プロジェクトマネジメント手法の中でも、最も広く利用されているのが「スクラム」です。

「スクラム」は、1990年代に米国人のJeff SutherlandとKen Schwaberがソフトウェア開発のフレームワークとして体系化したものですが、Jeff Sutherlandは「スクラム」のフレームワークを開発するにあたり、その基本概念の多くを大野耐一が確立した「トヨタ生産方式」を参考にした、と言っています。また、「スクラム」という名称も日本人に由来します。野中郁次郎と竹内弘高です。彼らは、1986年にハーバードビジネスレビューに発表した論文「The new new product development game」の中で、競争力の高い企業の新製品開発のプロセスを「ラグビーのようにチームが一丸となって進む」と表現し、この特徴を持つ手法を「スクラム」と名付けました。JeffとKenはこの論文とトヨタ生産方式を基にスクラムを開発したのです。

「スクラム」と「カイゼン」との親和性について

このような背景から、「スクラム」は、その根本的な思想に「カイゼン」と共通する特徴を持っています。

①小さな単位の機能開発と変化への適応:スクラムは、システム全体を小さな機能単位に分割し、1~4週間の短期間で機能ごとに積み上げていくプロセスを繰り返して開発します。これにより、開発要件の変更に柔軟に対応できます。この点は、漸進的な改善を目指す「カイゼン」と共通しています。

②チームの主体性を重視:スクラムは、チームメンバーの主体性を重視します。メンバー各自が自発的に活動し、作業方法を決定することで、生産性と適応力が向上します。カイゼンも同様に、現場の作業者が主体的に活動することを奨励しています。

③透明性とコラボレーションの促進:スクラムは透明性を重視し、プロジェクトの進捗状況や開発内容を関係者全員が確認できるようにします。カイゼンにおいても、透明性とメンバー間の情報共有が重視されています。どちらも、関係者間の活発なコミュニケーションが協力や工夫を促進するという信念に基づいているのです。

④定期的な振り返りによる継続的なカイゼンの促進:スクラムには、定期的な振り返りイベントがフレームワークに組み込まれており、経験から学び、カイゼン活動を進化させる仕組みが備わっています。

まとめ

今回は、従来のカイゼンをデジタル技術により高度化する「デジタルカイゼン」の有用性と、そのプロジェクトマネジメント手法としてスクラムが有効であることをご紹介しました。紙面の都合上、スクラムの詳細には触れていませんが、興味を持たれた方は、「スクラムガイド(2020年11月版)」が公開されている他、関連する書籍も多く出版されていますので、ご覧いただければ幸いです。経済産業省が策定した「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」においても、「労働人口の減少や市場縮小等の課題に直面する全ての中堅・中小企業等にとって、DXの取組は必要不可欠」と謳われています。本稿が、皆様の中小企業支援活動の一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール

吉田 樹生 (よしだ たつお): 2021年5月中小企業診断士登録

愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部卒。

日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITストラテジスト。

ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。趣味は旅行、読書、カメラ、空手。

BIZREN☆通信 31号 「 2025年の崖を乗り越えるために 」

はじめに
BIZRENの皆様、こんにちは。今回担当させていただく後藤と申します。 2023年改めて今年もよろしくお願いいたします。せっかくの機会何を書こうかと考えましたが、本業であるDXについて、2025年の崖も近づいてきたこともあり、改めて振り返ったうえで、乗り越えるためにどうすればよいか考えてみたいと思います。


DXレポートと2025年の崖
DXレポートと2025年の崖と聞いて久しいですが、2018年に経済産業省からDXレポートが発表されました。要旨は、既存システムの問題を放置し、DXが実現できない場合に生じる2025年以降の経済損失は、最大12兆円/年(2018年の3倍)に上る可能性があり、いよいよ停滞する日本経済も崖っぷちの状況であるという比喩です。DX実現シナリオでは、複雑化した既存システムについて、廃棄・塩漬け・刷新等を仕分けしながらDXを実現するシナリオとなっており、実質GDP130兆円の押上が期待できるとされます。
既存システムの問題とは何でしょうか。複雑な要因が絡み合って形成されていますが、DXレポートによるとシステム自体の過剰なカスタマイズ、複雑化・ブラックボックス化によるものとされています。
その結果と、事業部門ごとに構築されたシステムは全社横断的なデータ活用につなげられず、経営者がDXを望んだとしても現場の抱える課題を乗り越えることができない現実に直面します。
DXレポートではさらに技術的負債についても言及、解決する手段としてシステムのモダナイゼーション、マイクロサービスへの移行が言及されています。


技術的負債と2025年の崖を乗り越えるためには
DXレポートと2025年の崖はご存じの方も多いかと思いますが、技術的負債については馴染のない方もいらっしゃるのではないでしょうか。結論的には、技術的負債は、ビジネスとIT、事業部門とIT部門の構造的な問題そのものであり、その課題解決こそ崖を乗り越えるために必要であるという示唆を与えてくれます。銀の弾丸はなく、人の問題であるということです。
技術的負債とは、老朽化したシステム、レガシーシステムであることだとよく言われますが、この考え方は技術的負債の本質を突いておらず、システムのモダナイゼーションが特攻薬かのように誤解を生みます。技術的負債の本質は、徐々に複雑性が増していくことで機能追加が困難になるソフトウェアの特性、システム側の現象を負債というビジネス側の言葉を使って表現したことです。

ソフトウェア工学の有名な書籍「人月の神話」より、ソフトウェアには特性があるといい、中でも2025年の崖を乗り越えるヒントが複雑性、可変性、不可視性です。端的には、ソフトウェアは常に外部環境の変化に合わせて変わり続ける必要がありながら、規模に対して非線形に複雑さが増大する特性を持つため、変化が生じるほど、ソフトウェアの累積規模に対してコストが発生するような負債的な性質を持ち、また、そのソフトウェアの特性そのものが一部の方々には非常に理解しにくいというものです。


DXと求められる変化
改めてですが、DXとはDigital Transformationであり、デジタルを活用して提供価値起点でビジネスモデルを変革することです。2000年以前のITの役割は、バックオフィス業務のシステム化が中心でした。それは事業部門とIT部門の関係性そのものであり、IT部門のミッションは安定的なシステム運用でバックオフィスを支えることでした。当時のソフトウェアは一度構築すると変化は少なくそれこそ固定資産のように捉えても大きな問題は発生しません。
以降のインターネットやスマホ革命は、ITの役割を大きく変えました。ITそのものが顧客接点であり、ビジネス価値であり、コアケイパビリティとなる現代社会を生み出しています。そこでは、市場動向踏まえたアジャイル的な変化が、スピード感をもって必要であり、ITに求められることが大きく変わっているといえます。先の技術的負債で述べたソフトウェアの特性の通り、ソフトウェアはビジネス側
から理解しずらい複雑性を持ち、そのことはスピード感をもって取り組みたい事業部門から見て、なぜこんなにできるのが遅いんだ、コストが発生するのだという印象を与え、システム部門からは、ビ
ジネスに貢献するために実施したい課題解決策がビジネス側からは理解されず、さらなる複雑化を進めます。これが組織的な軋轢とさらなるスピード感の低下、DX実現に向けた障壁となります。


さいごに
ソフトウェアそのものがビジネスの価値を生むことは、これからも続いていくと考えられます。私の専門とするマイクロサービス、DevOpsはシステムだけの考え方ではありません。本質は組織論
やいかにビジネス価値を生むために変化に追従するかという考え方のスタックになります。ソフトウェアを正しく理解し、ビジネスとシステム、事業会社とベンダー、経営層と現場、垣根なくお互いが
歩み寄り理解し合うことがDX実現に向けて不可欠と考えられます。

執筆者プロフィール

後藤 光生(Teruki Goto)/2019年9月診断士登録
SI企業に勤務、PjM・アプリケーションアーキテクトに従事。
専門はマイクロサービス/API、クラウド、DevOps。
趣味はBBQ。最近はまっているものはブルーチーズ。
好きな言葉は、「三方よし」。

BIZREN☆通信 30号 SalesForceでのシステム開発について

ているSalesForceでのシステム開発について記載しようと思います。

Sales Forceとは

 まず「Sales Force」という言葉の意味について、インターネットで調べてみると「アメリカのセールスフォース・ドットコム社が提供する営業支援クラウドパッケージソフト」とまるで一企業の商品名を指しているようかのような記載が多いですが、本来その言葉は「SFA(Sales Force Automation):営業力の自動化」という考え方から端を発している言葉です。

 商品の供給が需要を上回り、企業間の競争が激化した昨今の成熟市場におけるマーケティングでは、顧客志向や既存優良顧客の囲い込みが重要となっています。

「クレーム返品のあったお客様に同じ商品を勧めますか。それは怒られるでしょう。」

「野球のグローブを買ったお客様にテニスのラケットを勧めますか。それはバットでしょう。」

個々の営業担当者の知識・技量に依存するのでは無く、組織的な情報収集、戦略立案、支援活動で競争を勝ち抜いて行く、そういった販売活動の組織的な仕組みがSFAということが出来ます。個人技よりも組織力のほうが大切・・・、近代サッカーのようですね。

 SalesForceはそのSFAを実現するためにセールスフォース・ドットコム社が提供している営業支援クラウドパッケージソフトで、インターネットに繋がりさえすれば他に用意するものは無く、ユーザ数に応じた料金体系なので、中小企業でも導入しやすいと言えます。

Sales Forceの特徴

 私が感じているSales Forceの特徴は汎用性が良く練られているということです。SalesForce自体を動かしている開発プラットフォーム(Force.com)がサービス提供されており、例えばSalesForceはSFA機能は主に標準機能で構成されていますが、標準機能を全く使わずにカスタマイズ機能でSFAとは関係ない業務システムを構築することさえ出来てしまいます。

 クラウドサービスの分類である、SaaS、PaaS、IaaSに当てはめてみると、より理解し易いかと思います。SaaSとは「Software as a Service」の略語で簡単に言うとソフトウェアの提供サービスのことです。PaaSとは「Platform as a Service」の略語で簡単に言うとアプリケーション開発のプラットフォームの提供サービスのことです。IaaSとは「Infrastructure as a Service」の略語で簡単に言うとインフラの提供サービスのことです。

SalesForceにこれを当てはめてみると

SaaS:予め標準機能で用意されているSFAのアプリケーションサービス

PaaS:カスタマイズ機能でSFA以外でもアプリ構築できるサービス(Force.com)

IaaS:SalesForceのデータセンター、サーバー、ネットワークの利用

となります。

Sales Forceでシステム開発するメリット

 PaaSであるForce.comの機能は充実しており、特別なこだわりが無ければ大概の業務システムは構築できてしまいます。実際SFAとは全く関係ない業務システムをSalesForceで開発構築していることを目にするケースは多いです。この辺りはセールスフォース社の戦略を感じます。まず一番手広く導入し易いSFAでSalesForceを導入させて、導入後はSFA以外のシステムもSalesForceで構築させて、その会社のシステム全体をSalesForceに置き換えてしまう。ゼロから新たに作り上げるシステム開発(以降スクラッチ開発と呼びます)と比べてSalesForceはコスト面、開発面、拡張性において大きな優位性があり、SalesForceに置き換わる流れは止まらないと感じています。またしてもアメリカ企業に一本取られてしまったように感じます。

 提供されている個々の機能についても不特定多数のユーザの利用に常に晒されていることから、汎用性が高いです。この辺りは村社会的で汎用性・拡張性を軽視しがちなスクラッチ開発とは大きな違いです。

 技術者(システムエンジニア)側にとっても有利な面があります。スクラッチ開発では顧客の環境独自のものが多く、それに依存したスキルは他の顧客環境では転用出来ないことが多いです。それに対してSalesForceのスキルは、他の顧客でもSalesForceを導入しているのであれば転用できることが多いです。いわゆるポータブルスキルというものです。これは顧客側にとっても新しい技術者を入れる場合、教育コスト削減のメリットがあります。

Sales Forceでシステム開発するデメリット

 前述したように独自のこだわりが強いことや特殊なことはパッケージソフトである為、出来ない可能性があります。(大抵の場合は代替案で解決することが多く、そこはSEの腕次第ですが)

 マルチテナント(クラウド上で複数のユーザーがシステムを共有するモデル)である為、処理負荷に制限があり、開発する場合は常に意識しておかなければなりません。

  SalesForceの参考文献はネット上にも多いですが、分かり易いものが少なかったり、英語でしか無かったりします。Sales Forceの学習や理解をするのに時間を要することが多く、効率的では無いように感じます。

印象に残ったもの

 最後に私が印象に残ったものとして、SalesForceの理念の一つでもある「平等(Equality)」の一環ですが、web学習環境のトレイルヘッドや無料の開発環境提供など誰もが気軽にSalesForceが学べ、門戸が広いことがあります。SalesForce自体が業界で後発であった為、このような思想を取る必要があったともいえますが、開発環境・学習環境が有料や整備されていないなどで仕切りが高く、いまいち普及しないパッケージソフトウェアとは大きな差を感じます。

 このことは後発であることが必ずしも不利ではないということを物語っています。後発であるが故の「ゲームチェンジャー」。置かれた状況の不利を嘆くのでは無くチャンスを見出し、「チャンスは最大限に活かす」ということが大切なのだと思います。

執筆者プロフィール

尾崎 利光(おざき としみつ)/2020年11月診断士登録
システム開発会社に勤務。システムエンジニア(SE)で、最近は専らSalesForceでのシステム開発に従事しています。趣味は、子供とブロック遊び(リブロック)

BIZREN☆通信 28号 「 シアトル酋長が大統領に宛てた手紙 」

今回、『BIZREN★通信』を担当させていただく田中勇司と申します。2012年4月の診断士登録とともに、BIZRENに入会させていただきました。コロナ禍でなかなか直接皆様にお会いできる機会がありませんが、どうぞよろしくお願いします。

 以下の手紙は、1854年にアメリカのピアス大統領がネイティブ・アメリカンの土地を買収し、居留地を与えると申し出て、ネイティブ・アメリカンのシアトルの酋長が白人との戦いをやめるために大統領に宛てた手紙と言われています。

 ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、私は先日ご年配の診断士の方からご紹介いただき、初めてこの手紙の存在を知りました。現在の世界の状況と照らし合わせて色々と感じる点が多かったので、この場をお借りして共有させていただきます。

■シアトル酋長が大統領に宛てた手紙<一部抜粋>

はるかな空は 涙をぬぐい きょうは 美しく晴れた。

あしたは 雲が空をおおうだろう。

けれど わたしの言葉は 星のように変わらない。

ワシントンの大首長が 土地を買いたいといってきた。

どうしたら 空が買えるというのだろう?

そして 大地を。

わたしには わからない。

風の匂いや 水のきらめきを あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?

すべて この地上にあるものは わたしたちにとって 神聖なもの。

松の葉の いっぽん いっぽん 岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ

深い森を満たす霧や 草原になびく草の葉 葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで

すべては わたしたちの遠い記憶のなかで 神聖に輝くもの。

—————–<中略>—————————–

もし わたしたちが どうしても ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら

どうか 白い人よ

わたしたちが 大切にしたように この大地を 大切にしてほしい。

美しい大地の思い出を 受けとったときのままの姿で 心に 刻みつけておいてほしい。

そして あなたの子どもの そのまた 子どもたちのために

この大地を守りつづけ わたしたちが愛したように 愛してほしい。

いつまでも。

どうか いつまでも。

出典【『父は空 母は大地』(寮美千子・編訳 ロクリン社刊)】

※ぜひ全文をご覧ください。https://ryomichico.net/seattle.html

実は、上記の手紙は実在していません。

 この手紙のもととなった演説は、1854年(ペリーの黒船が浦賀にやってくる1年前)にあったとされます。そしてこの演説は、翌年、書簡の形でピアス大統領に送られたとされています。しかし、そのような書簡は存在していません。

 演説の「テキスト」が登場したのは、33年後の1887年です。1854年当時に、教育長や立法を担当していた スミス博士(Henry A.Smith)が「メモ」を頼りに、新聞向けに書き起こしたものです。

 その後、1971年にネイティブ・アメリカンを扱った『Home』という映画が制作されました。テキサスのペリー教授(Ted Perry)が「シアトル酋長のスピーチ」の台本を創作しました。映画制作者がこれをさらに改変し、「ピアス大統領への手紙」という形式にしました。

 1974年、ワシントン州スポーケンで開かれた万博で、この形式の短縮版が展示されています。

■手紙からの気付き

シアトル酋長は土地は私有財産ではなく、人類のものでもなく、地球のものだと言っています。そして、「大地への大罪は将来の子孫に禍根を残す」、とも言っています。もしこのネイティブ・アメリカンの世界観が普遍のものだと、もう少し早く人類が気付いていたら、我々が今日直面しているSDGsやロシアのウクライナ侵攻などの問題は、どのような形になっていたでしょうか。

 また、現在はITの進展により既存の情報を深掘りしていく『情報処理』が急速に進んでいるものの、自然に五感で触れ、そこで得た新たな知見を『情報化』する力が衰えているのではないでしょうか。自然と都市、感覚と理屈など両者のバランスが大事だと思いますが、前者がどんどん駆逐されて後者の割合が増えてきているような気がします。

 今回の手紙を通じて、長期的・多面的・本質的といった診断士として大事な物事の考え方について、改めて振り返るよい機会となりました。

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執筆者プロフィール:

田中 勇司(たなか ゆうじ):

2012年4月診断士登録

千葉県流山市在住。食品メーカーを経て、現在はビールメーカーに勤務。食品小売業向けのトレードマーケティング業務に従事。会社の副業解禁にともない、2021年11月に個人事業主の開業届を地元の税務署に提出しました。

趣味は、ヨガ・スポーツ観戦・お酒(!)

BIZREN☆通信 27号 「中小企業とブランド戦略」

こんにちは。私は、長らく電機メーカーでブランド戦略の構築に携わってきたのですが、今回は、「ブランド」の考え方が中小企業でも有効か?ということで、「中小企業とブランド戦略」というテーマについて考えてみました。

ブランドとは?

皆さん、「ブランド」というと何を思い浮かべますか?

シャネルやルイヴィトンのようなハイブランド?それとも、アップルやコカ・コーラ、スターバックスなどが思い浮かぶでしょうか?

ブランドという言葉の語源は、中世ヨーロッパで所有する家畜が紛れてしまわないように、自らの所有物であることを示すために押していた「焼き印(brand)」だと言われており、物事を区別するための要素、という考え方から来ています。

しかし、現在では、ブランドは単純に区別をするだけのものではなく、物事やサービスによる評価や価値が蓄積されたものと考えられています。

ブランドの価値

ブランド論の第一人者であるディビッド・A・アーカー教授のブランドエクイティモデルでは、ブランド価値を、①ブランド認知(知っているかどうか)、②ブランドロイヤルティ(ブランドに対する好意や愛着)、③ブランド連想(ブランドの特徴や個性の認識)、④知覚品質(信頼度や品質イメージ)、⑤ブランド資産(知的財産権などの価値)に分類しており、多面的な価値を持つ、無形の資産と考えています。

ブランドコンサルティングのインターブランド社の調査 「Best Global Brands 2021」によると、世界で最も高いブランド価値を持つのはアップルで、そのブランド価値は 4,000億ドル以上と試算されています。ブランド価値には、選好性や価格プレミアムなど、製品やサービスの価値を高めることに直結する効果があり、企業活動に付加価値をつける機能があると考えられています。

ブランド戦略構築のプロセス

ブランド戦略構築にあたっては、まずそのブランドが何を目指し(ビジョン)、何を強みとし(コアコンピタンスやケイパビリティ)、何を実現していくのか(ミッション)という考え方を整理します。

その考え方を、企業活動により体現していくことで、社内外に対して一貫性を持ち、共通のイメージを持つブランドが構築され、ブランド価値が蓄積されていくことになります。

ブランド=知名度だという誤認をされている方がいらっしゃいますが、有名であるかどうかよりも、明確な特徴や一貫した活動と、そこに認められる価値が認識されているかが重要であると考えます。

中小企業は、認知獲得のためにTVCMなどへの大規模な投資は難しいと思いますが、経営の意思が企業活動に直結しやすいという点では大企業に比べて取り組みやく、自社の特徴や強みを明確にし、企業活動を通じて自分たちの価値を高めていくというブランド戦略は取り組みやすい施策なのではないかと思います。

中小企業のブランド戦略成功例

たとえば、山口県で日本酒製造業を営む旭酒造という企業があるのですが、こちらは、積極的な経営改革を、ブランドにつなげて大成功を収めた事例だと考えています。

日本酒市場は、この40年間で約1/3規模へと大幅に縮小しています。その厳しい環境下で旭酒造は、従来からの杜氏制度を廃止しデータによる醸造管理へ移行、生産品目を純米大吟醸酒へ絞り込む等大規模な経営改革に取り組み、地元山口から東京や海外へと展開していきました。

旭酒造は、この経営改革の旗印として銘柄を「獺祭」に絞り込みました。従来の日本酒とは異なるアプローチと共に、その品質や味の評価を、「獺祭」というブランドに蓄積するという考え方です。

「獺祭」は、当初は知る人ぞ知るという銘柄だったものが、現在では純米大吟醸酒の代表的な銘柄として認識されており、非常に高いブランド価値を蓄積しています。

>旭酒造 (https://www.asahishuzo.ne.jp/

ブランド戦略というと、宣伝やロゴなどの見せ方だけが論じられてしまうことが多いのですが、中小企業の強みや特徴を表現するためのツールとして活用し、付加価値を高めていくことができる考え方だと思います。一般消費者向けの商品だけでなく、企業間取引においても何が得意か、というのは発注先を検討する際の判断材料の一つになりますので、中小企業においても、自社がどのように見られたいかを考えてみてもらうと、これまでとは違う事業展開が見えてくるかもしれません。

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執筆者プロフィール:

城 秀利 (たち ひでとし):2013年9月診断士登録。

電機メーカー勤務。ブランド戦略、広告宣伝関連業務に従事。

趣味で、宣伝会議賞というコピーライティングの公募賞に応募していますが、受賞には至りません。

BIZREN☆通信 25号 「今の大学生の特徴から採用戦略を考える」

Bizren会員の皆様、こんにちは。はじめましての方も多いかもしれません。私は普段、私立大学の職員として、学生の職業観を醸成するキャリア教育や就職相談を行うキャリアセンターで仕事をしています。未だに同業の診断士にお会いしたことがなく、自分でも珍しいキャリアを歩んできているなと思っています。そこで今回は私が日々向き合っている今の大学生の傾向をご紹介し、中小企業の新卒採用戦略や新人教育のあり方の参考にしていただければと思います。

Z世代の特徴から見るジェネレーションギャップ

今の大学生はおおよそ1998年〜2002年生まれで、この世代は「Z世代」と呼ばれています。一番の特徴は、生まれた時からインターネットが普及しているデジタルネイティブであるということです。ちなみに私はこの一つ前のミレニアル世代(ゆとり世代)であります。Z世代には特にSNSが身近な存在であり、ネットで調べ物をすることを「ググる」ではなく、Twitterやインスタで利用される#(ハッシュタグ)から「タグる」と言うそうです。

幼い頃から世界中のリアルタイムの情報に触れてきたことで、国際問題の意識や道徳意識も高く、また、リーマンショック後の不況下で育ってきたことから、現実的で実利を追い求め、将来を重視するという傾向が強くあると言われています。私が普段接する学生との会話からも、コスパ意識の高さを感じることがよくあります。彼らの考えるコストは、“お金”ではなく“時間”という軸で捉えられていることが多いようです。例えば、このセミナーに参加することでどのようなスキルが身につくのか、何を経験すれば一番自分の成長につながるのか という視点で物事を考える学生が本当に多いと感じます。自分がやりたいことよりも得られることを優先するあたりに実利主義が垣間見えます。

キャリア教育の潮流

今教育現場ではもっぱらキャリア教育が注目されています。キャリア教育とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育(文部科学省より)」で、今の大学生は小中学校の頃から、学校教育の中で職業観を醸成する様々なキャリア教育プログラムを受けてきています。特に、実社会と関わるプログラムは増えてきました。本学でも企業から提示されたリアルな課題に対し、学生たちが解決策を検討し提案するPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を実施しています。参加学生はとても意欲的かつ前向きに取り組むので、企業からの評価も高いです。

学生はこうした実社会における成功体験によってある程度の自信が持て、それが実利主義が相まって、この会社に入れば自分はこのような成長ができるという具体的なイメージが持てる会社を好む傾向にあります。よって、進路選択時にはその企業の研修内容や人材育成計画(ジョブローテーション等)に興味・関心を持つ学生も多いです。

中小企業が新卒を獲得するための戦略

これらの傾向を踏まえ、私が診断士として中小企業にこそオススメしたいのがインターンシップの活用です。インターンシップとは学生が職場に入り込んで就業体験をすることです。今では約8割もの学生が就職活動前にインターンシップに参加しています。

あるアンケート調査によれば、就活生が会社選びで重視することの1位は「社風が合うこと」、また参加したいインターンシップの特徴1位は「現場社員と話せること」という結果でした。これらを体感することができるのが、現場の社員と共に働く就業体験=インターンシップへの参加であると言えます。

大企業は採用人数の母数が大きいことから一度に多くの学生と接触する必要があるため、ほとんどが企業説明会のような一方向型の内容にせざるを得ず、就業体験からは程遠くなっています。一方で、中小企業は少人数でも優秀な学生に選ばれること、つまり量より質を目指す内容で計画が可能です。ただし、中小企業がインターンシップを実施するには、人事担当者のマンパワー不足や準備への負荷が懸念され、実際にはなかなか導入できないケースもあると思います。しかし、人事担当者が大層なプログラムを練り上げる必要はありません。例えば営業同行や社長の鞄持ちのような内容でも良いと思います。リアルな会社の雰囲気を現場の社員から感じ取ることができるインターンシップであれば、学生が得たいと思う経験に合致し、人気も高まるはずです。

インターンシップは進路選択の一歩手前であるからこそ、会社のネームバリューや規模感に捉われず選ばれるため、中小企業が大企業に差別化を図り、早期に優秀な学生と接触するための好機になるのではないかと考えます。今後の新卒採用戦略の一つに、インターンシップの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

上述は私の個人的な見解や主観も多く含まれておりますので、一参考としてお受け止めいただければ幸いです。

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執筆者プロフィール:

中村 彩(旧姓:高橋):2015年10月中小企業診断士登録

国家資格キャリアコンサルタント 保有

本業は私立大学のキャリアセンター職員として、キャリア教育プログラムの企画・運営、指導などに従事。学生起業家サークルの顧問も務める。

趣味は海外旅行。最近はYouTubeで海外旅行記を視聴しながらコロナ後の旅行を計画中。

BIZREN☆通信 24号 「性格タイプがわかると人間関係がすっきり」

2021年7月 平野行伸

人の性格で悩んできました。

今回、BIZREN★通信を担当する平野と申します。よろしくお願いします。私は、長年、電機メーカーの営業職、マネージャーをしてきました。私が仕事上での営業の顧客折衝や、職場、プライベートの人間関係で悩んでいたこと。それは、「なんで自分はこう考えるんだろう?なぜ、ついつい、あのように答えるんだろう?」「あのお客様は、なんでああいう性格なんだろう?」「この部下は、なんでこんな性格なんだろう?」ということでした。

そこで、私は、色々調べていたたところ、性格類型論を研究するエニアグラムに行きつき、日本エニアグラム学会のアドバイザー資格を取得し、同学会会員としても活動しています。今回ご紹介する性格タイプ(エニアグラム)を知ったことで、ようやく私の悩みがすっきりしました。知っているようでいて、案外わかっていないのが自分自身のこと。「自分自身を知る」ということで、自分自身の能力をうまく生かしていくことにつながります。また、自分のことがわかれば、さらに自分と他人との違いを理解することができ、仕事上のお客様との関係、職場の人間関係、・家族や友人知人との関係など、周囲の人との、よりよいコミュニケーションの仕方もわかってきます。今回ご紹介する、性格類型論(エニアグラム)は、自分探しをしている人、就職・転職など自分の進路や将来のことで迷っている人、ビジネスの場で人間関係が特に重要と感じている人、職場でリーダーとして人をまとめていかなければならない立場にいる人、家族、知人との関係で戸惑いを感じている人などに役立ちます。また中小企業様向け人事・営業コンサルにも役立ちます。

エニアグラムって何?

エニアグラムとは、いわゆる性格類型論で、人間の性格を9つの基本タイプに分類し、それぞれのタイプの内面の気質の傾向を探るものです。エニアグラムとは、ギリシア語のエニア:9つ、グラム:図という意味です。原始キリスト協会の古代から始まり、20世紀に、心理学者が科学的に研究、検証を始めました。のちにスタンフォード大学で体系化され、現代にいたっています。

9つの基本タイプの診断は、どうやるの?

一番簡単な診断テストだと、たった2つの質問に答えるだけ。あなたや、判定したい相手を思い出して、質問に答えてください。

①社交性:あなた、その相手は、人に接するときの態度は、A:自己主張型(自己主張が強い)、B:追従型(相手のことを優先する)、C:遊離型(内に篭り勝ち)いずれですか?

②感受性:あなた、その相手は、物事に対する受け止め方は、X:肯定型(ポジティブ)、Y:合理型(ロジカル)、Z:反応型(リスクに過剰に反応するタイプ)のいずれですか?

日本エニアグラム学会Webページでは詳細な診断ができます。

https://www.enneagram.ne.jp/about/diagnosis

9つの性格類型

質問に答えたら、以下の表で、社交性(ABC)と感受性(XYZ)のそれぞれの質問回答が交わる類型を確認してください。その類型があなたやその相手の類型です。この性格は、おおむね、各個人の神経伝達物質の「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」の分泌量に関係しているとの研究報告がされています。

9つの性格類型の有名人、漫画キャラ

各タイプの有名人、漫画キャラは以下のとおり。ただし、有名人の方に診断をしてもらったのではないので、実際は違う場合もあります。また、外部の印象から人の性格を決めつけることも推奨していませんのでご注意ください。ちなみに私は5.観察者です。

1.完璧主義者(イチロー、ドラミちゃん)、2.博愛主義者(関根勤、ドラえもん)、3.達成する人(小池百合子、スネ夫)、4.個性的な人(マイケル・ジャクソン、スナフキン)、5.観察者(タモリ、しずかちゃん)、6.忠実な人(谷原章介、マスオさん)、7.熱中する人(明石家さんま、野原しんのすけ)、8.挑戦者(ドナルド・トランプ、ジャイアン)、9.平和主義者(ウド鈴木、のび太)

執筆者プロフィール:

平野行伸(ひらのゆきのぶ) 2020年5月診断士登録

勤務先:株式会社 日立製作所 水・環境営業統括本部

職歴:新卒後、山一證券株式会社に入社しリテール営業をしていたところ、すぐに会社が自主廃業の憂き目に。日立製作所に中途入社。最初はコンシューマPCの営業企画で、マーケティングや商品企画、広告宣伝を担当。その後、公共ITシステム営業へ異動し、中央官庁及び自治体のIT営業担当。現在は、社会インフラ(上下水道、道路、港湾、空港、脱炭素・環境等)の官民連携・IoT・AI関連の新規事業創生を担当。この4月より、広島に単身赴任し、中国、九州で自治体へ提案活動中。

取得資格:ITストラテジスト、日本エニアグラム学会アドバイザー(3級)を取りました。

資格勉強中: 2021年5月から予備試験(法科大学院を出なくても司法試験を受けられる試験)の勉強を始めました。

BIZREN☆通信 23号 「縁をつなぐ場としてのBIZREN」

2021年5月 清板智子

BIZRENの例会をオンラインに切り替えて1年以上経ちました。場所問わず参加できる良さがありますが、一度も顔を合わせたことがない方もいらっしゃいますよね。4~6月は入会検討中の方にも目にしていただくことが多い時期ですので、BIZRENの雰囲気に触れつつ、診断士活動の参考になればと、私のこれまでの活動をゆる~くご紹介したいと思います。目を見張る活躍をされている方の経験談は入手しやすい一方で、そうではない人たちってどのようなことをしているの?という問いにこたえる一つのサンプルになれば幸いです。

資格取得まで
きっかけは、当時担当していたお客様に提供できることを増やしたい、経営について体系的な知識を得たいと思っていたときに中小企業診断士という資格を知り、資格学校の体験講座を受けたこと。面白そうだなと、そのまま入学を決めました。
2014年度に合格し、そこから15日間の実務補修を経て、2015年4月に経済産業省に登録されました。ここまでは、前のめりな人って思うかもしれませんが、当時は合格したら早く登録したいなくらいの感覚でした。実務従事を重ねることで、登録要件を満たせるということをきちんと理解していなかったので、目先のレールに乗っただけとも言えます。そんなこんなで、順調に登録完了したものの、知識習得を目的にしていた私は、登録後についてはほとんど(いえ、まったく)考えていませんでした。

登録後の模索期間とBIZRENとの出会い
診断士1年目は、協会や支部イベントに参加したり、多数のマスターコースの勧誘に驚いたり、研究会の見学に足を運んだり、支部活動に携わったり(中央支部国際部で4~5年活動していました)、お世話になった先生からの“1円を稼ぐ大切さ、苦労を体験せよ”という助言のもと、同時期に合格した勉強仲間と電子書籍を出版したり(これはこれで楽しかった!)、と週末時間の多くを模索時間に費やしていました。
が、この状態は持続性がないなと感じ、自分のペースでできること、したいことに緩やかにシフトしていきました。
そんな中で紹介してもらったのが、BIZREN。初回見学は診断士2年目になった5月、ちょうど総会のときでした(※総会とは、1年間の活動内容を決定する場。現在は3月開催に変更されています)。総会は聴いているだけでしたが、懇親会に参加してみると、馴染みやすそうだな、ガツガツしていなくて居心地よさそう、という印象をもったと記憶しています。入会を強要されることなく、“よかったら来月も来てくださいね~”と言っていただき、そのまま現在まで継続しています。皆さん企業勤務の方で、適度な距離感でフラットに繋がれることが魅力的だと感じています。

診断士らしい仕事
初めて診断士らしい仕事をしたのは、企業の補助金申請の支援。BIZRENで行っているプロジェクトのひとつです。初回は、お客様はどんな企業で、どのような事業を行っているのか、業界の特徴はなにか、補助金はどのような内容なのか…、と調べることが多く、時間がかかりますし、社長や担当者から聴いて引き出すことも多い。BIZRENではチームのサポートを受けられるので、心強さはありつつも、主体は自分なので、初回はそれなりに苦労しました(いや、2回目以降も変わらないかも?)。
補助金支援で得られることは、実務従事ポイントとちょっとした対価、段取り力が鍛えられること、本業と異なる業界のお客様と向き合い視野が広がることだと思います。そして何より、自分の力でお客様に役に立てることは嬉しいですね。
私がこれまで担当したお客様は機械器具製造業や福祉サービス業など、普段接点がない業界でした。例えば、金型企業を担当した際は、着手段階では金型って何?という状態でしたが、ネット動画で製造工程を見てイメージをつけたり、どのような製品に使われているかをメーカーサイトで確認したりして理解を深めていきました。新しいことを知ることが好き、面白い!と思える方はきっと楽しい時間になると思います。私は申請書作成段階では、楽しむ余裕を持てないことが大半ですが、振り返ると学びになったなと感じます。

続けているとつながってくる
現在は、縁あって数社の経営支援や業務支援を適度なペースでさせていただいています。今ある仕事を丁寧に対応することで、次につながっていくんだな、と実感しています。周りの方々を見ていても、一つの仕事から、別の仕事につながったり、広がったりしている様子を見聞きすることが多いです。これはきっと、どの世界でも共通していることですよね。
資格は、取得過程で得られたことがあれば、十分に意味があるものだと思います。さらに、使い方によっては共通項を探るツールであり、縁をつないでくれるツールにもなる。
BIZRENという研究会は、縁をつなぐ場でもあります。
自分なりのスタイルで、その時々で続けられるペース・内容で参加している方が多いのも特徴です。相互連携を大切にしていて、持ち回りで幹事を担当しています。いつかは読者の皆さまもこの通信の企画者になっているかもしれません。
ということで、BIZRENにご関心がありましたら見学大歓迎です!

執筆者プロフィール:
清板 智子(せいた ともこ):2015年4月中小企業診断士登録

マーケティング情報サービスの会社で、サービス企画開発やIT企画などに従事。
最近ハマっていることは、観葉植物を愛でること。