BIZREN☆通信 31号 「 2025年の崖を乗り越えるために 」

はじめに
BIZRENの皆様、こんにちは。今回担当させていただく後藤と申します。 2023年改めて今年もよろしくお願いいたします。せっかくの機会何を書こうかと考えましたが、本業であるDXについて、2025年の崖も近づいてきたこともあり、改めて振り返ったうえで、乗り越えるためにどうすればよいか考えてみたいと思います。


DXレポートと2025年の崖
DXレポートと2025年の崖と聞いて久しいですが、2018年に経済産業省からDXレポートが発表されました。要旨は、既存システムの問題を放置し、DXが実現できない場合に生じる2025年以降の経済損失は、最大12兆円/年(2018年の3倍)に上る可能性があり、いよいよ停滞する日本経済も崖っぷちの状況であるという比喩です。DX実現シナリオでは、複雑化した既存システムについて、廃棄・塩漬け・刷新等を仕分けしながらDXを実現するシナリオとなっており、実質GDP130兆円の押上が期待できるとされます。
既存システムの問題とは何でしょうか。複雑な要因が絡み合って形成されていますが、DXレポートによるとシステム自体の過剰なカスタマイズ、複雑化・ブラックボックス化によるものとされています。
その結果と、事業部門ごとに構築されたシステムは全社横断的なデータ活用につなげられず、経営者がDXを望んだとしても現場の抱える課題を乗り越えることができない現実に直面します。
DXレポートではさらに技術的負債についても言及、解決する手段としてシステムのモダナイゼーション、マイクロサービスへの移行が言及されています。


技術的負債と2025年の崖を乗り越えるためには
DXレポートと2025年の崖はご存じの方も多いかと思いますが、技術的負債については馴染のない方もいらっしゃるのではないでしょうか。結論的には、技術的負債は、ビジネスとIT、事業部門とIT部門の構造的な問題そのものであり、その課題解決こそ崖を乗り越えるために必要であるという示唆を与えてくれます。銀の弾丸はなく、人の問題であるということです。
技術的負債とは、老朽化したシステム、レガシーシステムであることだとよく言われますが、この考え方は技術的負債の本質を突いておらず、システムのモダナイゼーションが特攻薬かのように誤解を生みます。技術的負債の本質は、徐々に複雑性が増していくことで機能追加が困難になるソフトウェアの特性、システム側の現象を負債というビジネス側の言葉を使って表現したことです。

ソフトウェア工学の有名な書籍「人月の神話」より、ソフトウェアには特性があるといい、中でも2025年の崖を乗り越えるヒントが複雑性、可変性、不可視性です。端的には、ソフトウェアは常に外部環境の変化に合わせて変わり続ける必要がありながら、規模に対して非線形に複雑さが増大する特性を持つため、変化が生じるほど、ソフトウェアの累積規模に対してコストが発生するような負債的な性質を持ち、また、そのソフトウェアの特性そのものが一部の方々には非常に理解しにくいというものです。


DXと求められる変化
改めてですが、DXとはDigital Transformationであり、デジタルを活用して提供価値起点でビジネスモデルを変革することです。2000年以前のITの役割は、バックオフィス業務のシステム化が中心でした。それは事業部門とIT部門の関係性そのものであり、IT部門のミッションは安定的なシステム運用でバックオフィスを支えることでした。当時のソフトウェアは一度構築すると変化は少なくそれこそ固定資産のように捉えても大きな問題は発生しません。
以降のインターネットやスマホ革命は、ITの役割を大きく変えました。ITそのものが顧客接点であり、ビジネス価値であり、コアケイパビリティとなる現代社会を生み出しています。そこでは、市場動向踏まえたアジャイル的な変化が、スピード感をもって必要であり、ITに求められることが大きく変わっているといえます。先の技術的負債で述べたソフトウェアの特性の通り、ソフトウェアはビジネス側
から理解しずらい複雑性を持ち、そのことはスピード感をもって取り組みたい事業部門から見て、なぜこんなにできるのが遅いんだ、コストが発生するのだという印象を与え、システム部門からは、ビ
ジネスに貢献するために実施したい課題解決策がビジネス側からは理解されず、さらなる複雑化を進めます。これが組織的な軋轢とさらなるスピード感の低下、DX実現に向けた障壁となります。


さいごに
ソフトウェアそのものがビジネスの価値を生むことは、これからも続いていくと考えられます。私の専門とするマイクロサービス、DevOpsはシステムだけの考え方ではありません。本質は組織論
やいかにビジネス価値を生むために変化に追従するかという考え方のスタックになります。ソフトウェアを正しく理解し、ビジネスとシステム、事業会社とベンダー、経営層と現場、垣根なくお互いが
歩み寄り理解し合うことがDX実現に向けて不可欠と考えられます。

執筆者プロフィール

後藤 光生(Teruki Goto)/2019年9月診断士登録
SI企業に勤務、PjM・アプリケーションアーキテクトに従事。
専門はマイクロサービス/API、クラウド、DevOps。
趣味はBBQ。最近はまっているものはブルーチーズ。
好きな言葉は、「三方よし」。