2024年からBIZRENに参加しております須田と申します。
私は現在、某公的研究機関とその関連会社において、シーズ・ニーズマッチングを生業とする傍ら、細々と診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。今回は、皆様もよくご存じのフレーズ「技術で勝って事業で負ける」に関して考えてみたいと思います。
- はじめに: 日本の技術力と「事業力」のギャップ「日本の技術はピカイチなのに、なぜビジネスで勝てないんだ?」。
これは、技術者や経営者が日々頭を抱える問題です。私自身も、アカデミアでの研究開発に多くの時間を費やし、技術こそが成功の鍵だと信じていました。しかし、最近のシーズ・ニーズマッチングの仕事を通して、技術と事業成功の間には大きなギャップが存在することを痛感しています。技術力が高いほど、事業がうまくいかない―そんな逆説的な状況も現実にはあります。
- 技術が強すぎると事業で負ける?
妹尾堅一郎著『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』では、技術の強みが必ずしも事業の成功を保証しないという皮肉が詳述されています。技術者が新しい技術を「見せびらかす」こと
に喜びを感じる一方で、実際にその技術をどうやって市場に投入するかが二の次になることがよくあります。
例えば、画期的な新素材を開発した企業が、「これは世界を変える!」と信じて市場に投入したのに、全く売れなかったという話を聞いたことはありませんか?技術に没頭しすぎて、「売ること」を忘れてしまうのです。技術は完璧なのに、市場とのギャップが原因で失敗する…これが「技術で勝って事業で負ける」の典型例です。
- 技術で勝っても事業で負ける例: 日本の事例
日本には、技術が素晴らしいにも関わらず事業として失敗した事例が多くあります。たとえば、VHS対ベータマックス戦争はその一例でしょう。ベータマックスは技術的に優れていましたが、ビジネスとしてはVHSに敗れました。その理由は単純で、技術の優位性よりも、マーケティング戦略や消費者ニーズに合わせた柔軟性が鍵だったのです。このように、技術で勝っていても「売れる仕組み」がなければ、事業としては成功しないというのは、日本のビジネスにとっての教訓です。
- オープン&クローズ戦略: 技術をどう活かすか?
小川紘一著『オープン&クローズ戦略』は、技術の活用におけるもう一つの鍵を教えてくれます。彼の主張は、技術をオープンに提供する部分と、クローズにする部分を巧みに使い分けることで、事業を成功に導くというものです。
例えば、ある企業が自社の基幹技術をオープンにすることで、他社との連携を強化しつつ、最も重要な技術部分はクローズにして他社の追随を許さないという戦略です。これにより、技術そのものを売るだけでなく、その技術が使われるエコシステム全体を取り込むことで事業を拡大することが可能になります。
技術が優れていても、それをどうやって市場に適応させ、収益化するかが勝敗を分けるのです。
- 技術より大事な「売れる仕組み」
技術がどれほど素晴らしくても、それだけでは成功しません。シーズ・ニーズマッチングの仕事を通じて痛感しているのは、どれほど斬新な技術でも、顧客のニーズに合わなければ売れないという現実です。
「技術者は技術に溺れやすい」。これは私自身、アカデミアでの経験からも感じていることですが、研究成果を創出し、技術を向上することにばかり力を注ぎ、市場の声を聞くことを忘れがちです。研究や技術が主役ではなく、それを活用してどのようにビジネスモデルを構築するかが、事業成功のカギなのです。
- まとめ: 技術で負けても、事業で勝つ方法はある
技術がすべてだと考えると、事業での失敗が増えます。しかし、逆に技術で多少劣っていても、適切なビジネス戦略を持てば事業で成功することは十分に可能です。
技術で勝っても事業で負ける、逆に技術で負けても事業で勝てる。この逆説的な状況こそが、現代ビジネスの面白さです。技術と事業戦略がうまく調和することで、本当の勝者になれるのです。
そしてそのためには、シーズとニーズのマッチングをいかに戦略的に行うかが、これからの事業成功のカギとなるのでしょう。
参考図書
『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎著
『オープン&クローズ戦略』小川紘一著
執筆者プロフィール
須田洋幸(すだひろゆき): 2021年・中小企業診断士登録。
某公的研究機関に四半世紀以上勤務し、その間、独国在外研究や研究所の経営企画、研究ユニット管理などを経験。
現在は関連会社にて、研究シーズと企業ニーズをベースに研究連携を組成するコーディネート業務に従事。
趣味は、球技崩れの陸上競技部リーダーを発端に、ウォーキングやトレランなど体を動かすこと。その他、昔夢見たフォークシンガーにいつかは・・・。