2024年5月からBIZRENに参加しております吉江と申します。私は現在、某政策金融機関(以下「当行」)において、出融資保証(以下「ファイナンス」)の供与先であるお客様の環境社会配慮の適切性を確認するという仕事をする傍ら、副業で診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、この「環境社会配慮確認」と、関連して最近メディアでも取り上げられつつあるインパクトファイナンスをご紹介します。
◆ 環境社会配慮確認
当行は、ファイナンスを供与する前に、信用力審査や事業評価を行いますが、同時に、ファイナンス対象プロジェクト全てにおいて、環境社会配慮も確認します。具体的には、お客様からファイナンスの要請があると、まず、環境社会へのリスクの度合いをスクリーニングするための所定のアンケートにお答えいただき、カテゴリ分類(主にA、B及びC)を行います。AやBに分類されると、さらに「レビュー」が行われます。大気質、水質、生態系、といったプロジェクト周辺の「環境」や、地域住民・先住民・労働者の人権、文化財、景観といった「社会」に対して適切な配慮がなされているか確認します。不適切な場合は、適切になるよう働きかけ、それでも改善されない場合は、ファイナンスを実施しないこともあります。そして当行のファイナンスは期間が10~20年と長期にわたりますが、その間、環境社会配慮の状況をモニタリングします。
当行は「環境社会配慮確認」のための独自ガイドラインに基づき業務を実施しています。同ガイドラインは、各国の政策金融機関の環境社会配慮確認に関する取り決めである「OECD環境コモンアプローチ」(注1)や、世銀グループの国際金融公社(IFC)の環境社会配慮に関する「パフォーマンス・スタンダード」(注2)も踏まえた内容となっています。
(注1)https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2016)3/en/pdf
(注2)https://www.ifc.org/en/insights-reports/2012/ifc-performance-standards
◆ インパクトファイナンス
さて、「サステナビリティ経営」という視点で見ると、企業は外部環境にある財務資本、人的資本、社会関係資本、自然資本等を利用して事業活動を行い、その事業活動やアウトプットが外部環境に対する正負の影響をもたらします。正の影響を大きくし、負の影響を回避・緩和することが企業に求められますが、「環境社会配慮確認」は、この負の影響の回避・緩和に着目するものです。一方、昨今、正の影響の結果としての社会的な意義の達成や社会課題の解決、すなわちポジティブなインパクトに注目してファイナンスを行おうという動きがあります。それが「インパクトファイナンス(インパクト投資)」です。
The Global Impact Investing Network (GIIN)(注3)によれば、インパクト投資とは、「金銭的なリターンをもたらすとともに、社会的及び環境的なインパクトを生み出すもの」です。そして、インパクト投資には、投資を通じてインパクトを生み出すという投資家の意図が必要で、インパクトの達成や進捗を測定し報告するという「インパクト計測と管理(IMM)」が行われるのが特徴とされています。
1920年代からの欧米における「社会的責任投資」等の動き、2006年の国連「責任投資原則(PRI)」の発表を背景に、2007年に初めて「インパクト投資」という言葉を使ったロックフェラー財団が中心となり2009年にGIINを創設しました。日本を含む世界400以上のアセットマネージャー、アセットオーナー等がメンバーになっています。また、2013年に当時のG8議長のキャメロン英首相の提唱で創設された「G8インパクト投資タスクフォース」(2024年5月にGSG Impactに改称)(注4)は、日本を含む35か国の政府、その他国際機関等がパートナーとなり、調査研究や普及啓発を行っています。
日本でも2014年にGSG国内諮問委員会(注5)ができ、2021年に民間金融機関が「インパクト志向金融宣言」(注6)を発表。そして金融庁による2024年3月の「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」(注7)の公表と前後して、2023年11月に、投資家・金融機関、企業、自治体等の幅広い関係者が議論する場として、「インパクトコンソーシアム」(注8)が設立されています。
(注4)https://www.gsgimpact.org/
(注5)https://impactinvestment.jp/index.html
(注6)https://www.impact-driven-finance-initiative.com/
(注7)https://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20240329.html
(注8)https://impact-consortium.fsa.go.jp/
社会的課題の解決と金銭的リターンを両立しようとするインパクトファイナンスは、日本でもスタートアップ含む中小企業の資金調達手段になりうるか、個人的に注目しているところです。
執筆者プロフィール
吉江 歩(よしえあゆむ)
2024年5月中小企業診断士登録。
某政策金融機関勤務。海外事業(天然ガス、再エネ、船舶・航空機等)向けファイナンスや業務企画、コンプライアンス、IT企画・統制、働き方改革企画等を経験。現在は、環境審査室に所属。
大学時代に母高女子バスケ部の監督をした経験からチームスポーツ全般を見ることと、カラオケ、シャーロック・ホームズが好きです。