BIZREN☆通信 18号 「お金の寿命も延ばしたい」

2020年9月 宮司和幸

時価総額2兆ドルの一方で・・・

先日Apple社の時価総額が2兆ドル(約210兆円)を超えた。東証市場一部全社(約2,100社)の時価総額合計が約600兆円であるから、Apple社1社でその3分の1の価値があるとマーケットで評価された。今や世界のトップ企業は、GAFAをはじめ米国や中国勢が大半を占めているが、バブル期の1989年、世界の時価総額上位50社にうち、実に32社を日本の企業が占めていた。現在トップ50に入るのはトヨタ自動車1社だけで、日経平均株価は、1989年12月29日の史上最高値38,915円の約6割の水準で推移している。

家計の金融資産は増えている?

そうした中でも、日本の家計の金融資産は1,800兆円まで増加し続けているが、その半分は現金・預金が占めている。これは欧米の状況とはかなり異なり、特に株式や投資信託が占めるシェアは約15%と低く、金融資産の額は増加しているとはいえ、その伸び率は欧米と比較して低い原因ともなっている。

日本で、株式投資をしたこともないし、関心もないという人は約7割で、その主な理由は「分からない(難しい)」、「怖い」、「元本を減らしたくない」等があげられる。少子高齢化や人生100年時代が本格化する中、今後の年金の水準は不透明であり、健康だけではなく、自らが保有する資産が死ぬまで尽きないように「お金の寿命も延ばす」ことは、老後不安を払しょくするのに非常に重要となっている。

資産形成への取組み

そのための自助努力を少しでも進めたいという思いから、「貯蓄から投資(資産形成)へ」という掛け声の下、20年以上も前から金融関係者は多くの取組みを行ってきた。現在の金利で100万円を5年間銀行に預けても、利息は1万円にも満たない。それならば、リスクは多少あるにしろ株式をはじめ多様な商品に資産をバランスよく振り分けた方が得られるものは大きいというものである。

ただ、老後の備えを退職金をもらってさあ始めようと思っても極めてハードルは高い。理想は現役の時から、日常的に使うお金は現預金、もしもの備えは保険、将来の準備は株式等とバランスよく資産形成を行うことに慣れておくことだろう。その中で職業柄、よく株式投資のことについて聞かれるのでその際の回答ぶりを紹介したい(あくまでもプライベートのやりとりです)。

まずは漫画から?

最もよく聞かれるのは「よく分からない」だが、その際は「インベスターz」という漫画をお勧めしている。東大受験をテーマにブレイクした「ドラゴン桜」と同じ漫画家の作品で、全21巻と少し長いが、かなり読みやすい。そうすると大凡「そんなことはいいから、とりあえず何をしたらよい?」と続くのだが、確定拠出年金(DC)を行っていないのであれば、まずそれを勧めるし、行っているのであれば、対象商品を預金だけではなく少しずつでも投資信託等に振り分けることを紹介している。DCは、拠出分の所得控除があるので、それだけでも非常に魅力的なものだと思う。

3つのキーワード

また、「何を買ったらよい?」というのもよくある質問である。もちろん個別銘柄や商品を答えることはできないが、趣味程度であれば、「自分が好きな企業のことを調べてみたら?」と答えるが、将来のために本格的に準備しておきたいということだと、「長期」、「積立」、「分散」という3つのキーワードを伝える。要は、長期にわたり、こつこつと決まった額を、できるだけ異なる商品に投資していくことが有効ということである。運用の成果は、保有期間が長いほど、また、例えば、国内と海外、株式と債券等できるだけ多様な商品に分散するほど、高くなる傾向がある。

自分で商品を選ぶのが難しければ、仕組的にそれが確保され、かつ、非課税でもある「つみたてNISA」から始めるのがよいであろう。さらに、定年後、収入が不足する分は資産を切り崩して補填しつつも、しばらくは資産形成も続ける方がお金が尽きるまでの期間は長くなりやすい。

中小企業の応援

もちろん資産形成だけがお金の寿命を延ばす唯一の方法ではない。生活のレベルをいきなり変えるというのはかなり難しいだろうが、できるだけ支出を抑えるというのも一つの方法である。また、年金以外の収入を得るために、できる限り長く働くというのは、最も有効だし、確実だと思う。中小企業はそうした受け皿にもなりやすいのではないかと考えており、その応援はずっと続けていきたい。

執筆者プロフィール:
宮司 和幸 (みやじ かずゆき):2019年5月診断士登録。
証券・金融・商品関係の会社に勤務。現在は広報・IRを担当。趣味は、スカッシュ、サックスフォン、旅行等いろいろあったが・・・現在は3歳と6歳の男の子の育児に奮闘中。目下の課題は、自由時間の確保。