BIZREN☆通信 21号 「アトキンソンさんにモノ申す?」

2021年2月 磯島康郎

私には昨年9月菅政権が発足した時からずーっと気になっていることがある 。それはデービット ・ アトキンソンさんの存在だ。 政府「成長戦略会議」 のブレーンの一人。 英国オックスフォード大学で日本学を学びゴールドマンサックス時代にバブル後の日本経済をアナリストとして見つめてきた人物だ。 現在は寺社仏閣等の修復を手掛ける小西美術工藝社という中小企業の社長でもある 。 私は、 以前から彼の著作「観光立国日本」 「日本人の勝算」 などを愛読していた。

中国の属国になるか
私が診断士の養成課程を卒業するときに、 出版社に勤める知人から 「これから診断士になるなら 、 ぜひ読んでおいた方がいい本があるよ 」 と言って手渡されたのが「国運の分岐点」という本である 。 サブタイトルには「中小企業改革で再び輝くか、 中国の属国になるか」 刺激的な言葉がある 。 この本の目次は以下の通り

第1章 「低成長のワナ」からいかにして抜け出すか
第2章 日本経済の最大の問題は中小企業
第3章 この国をおかしくした1964年問題
第4章 崩壊しはじめた1964年体制
第5章 人口減少・高齢化で「国益」が変わった!
第6章 国益と中小企業経営者の利益
第7章 中小企業 護送船団方式の終焉
第8章 中国の属国になるという最悪の未来と再生への道

彼がこの本で書いていることとほぼ同じ内容が未来成長会議で話され昨年12月の実行計画の第7章に落とし込まれている。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai5/siryou1.pdf
彼の著作の書かれている内容は極めてロジカルで解り易い。日本の戦後復興は、 日本人の勤勉さと日本人は思い込んでいるが、 単純に人口が爆発的に増えたからGDPも増加した。GDO=人口× 生産性だから人口が減少している今の日本では生産性を高めないとGDPは維持すら できない。 だったら生産性を上げるしかない。 中小企業は大企業の半分しか生産性がないから 合併やM&Aを促進して規模を大きくしてGDP=国力を保つしかないでしょ …ということだ。確かにお説ごもっともで突っ込みどころがないように見える 。しかし …しかしである 。 彼の主張に私は “そこはかとない ”違和感を感じている 。 皆さんはアトキンソンさんの主張が政府に影響力を持ち実行されていくのをどの様に感じていらっしゃるでしょうか?

記憶にないアメリカの街
私はアメリカ赴任時代にオバマ氏とヒラリー・ クリントン氏が民主党の大統領候補の座を争っていた予備選挙キャンペーンに帯同して全米中を取材したことがある 。 NYやロス、 サンフランシスコ 、 マイアミ 、 ボストンなど海沿いの町は覚えているのだが地図の真ん中にある 街も 多数訪れたが全く記憶に残っていないのである 。 それはなぜか? どこに行っても同じチェーン店やモールしかなかったからである 。きっとそ れらの町にも私が訪れる 10年以上前には個人経営の個性豊かな食堂やレストランがあったであろう 。 生産性を求めると規模の経済原理が働き多様性が失われてしまうのは仕方がないことかもしれない。

私は、 アトキンソンさんの主張が間違っているというつもりはさらさらない。 生産性向上はもちろん指すべきだと思う 。一方で“多様性” を失ってよいかというとそうではないと思う 。このまま 、 突き進むと 日本中どこに行ってもユニクロをニトリしかないような町がいたるところに出現してしまうのではないかと 危惧している 。 私は2010年民主党政権下で作成された中小企業憲章を思い出した。 診断士の一次試験の過去問にも出たことがあるので記憶にある方も多いだろう
https://www.meti.go.jp/committee/summary/0004655/kensho.html
憲章の冒頭部分には以下のような記述がある

「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす。小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす。このように中小企業は国家の財産ともいうべき存在でる。 」

妻の友人が昨年4月、 緊急事態がまさに発出されるタイミングで奥沢駅の近くにカフェをオープンした。 50代半ばの子育てが一段落した主婦が、 これまで母親として子供に食べさせてきた安全で美味しい料理を家族以外の人にも食べてもらいたい 。 自分の夢をかなえるため美と健康にこだわったメニューを提供しコロナ禍でも 地元民に愛され大検討している 。

私は診断士2年目で大した実績もない。 ただ3年目を迎えるにあたり 、 右手には成長戦略会議の実行計画を携えながら左手には、 中小企業憲章の“魂”も持ちながら診断士活動をしたいと思う 。

執筆者プロフィール:
磯島康郎(いそじま やすお) :2019年5月診断士登録

㈱フジテレビジョン 編成制作局 著作権契約部勤務
職歴: 「情報プレゼンターとくダネ ! 」「ノンストップ! 」 プロデューサー
ニュースサイト FNNプラインオンラインチーフプロデューサー
趣味は全身EMSスーツで愛犬と散歩